これまでまったく縁のなかったテレビショッピングというものの一端を、僭越にも少しずつ知りはじめている。ある商品を30分とか1時間とか、決まった時間の枠内で販売する、そのことについて、これまで私はまったく想像を及ばせたことがなかった。50万円の小判を売る番組が朝9時からやっている。ボールペンを売る番組が存在する。どうやってやるのか、そもそもそんなことできるのかが理解できなかった。
観てまず分かったのは、「できます」ということだ。めちゃくちゃに可能だった。小判は純金という価値観のほか、分厚いストーリーが示された。ボールペンはモノとしての良さだけではない、手書きの良さ、さらにいかに信頼できるメーカーの商品かまで細かく紹介していく。テレビショッピングでは商品は売るのではない。ご紹介する。繊細な見極めでぎりぎりの線引きによって、売らない手腕が光る。むしろテレビを観ている側が取りに行くように望んで買っている感じがして、マジカルな味であると思わされた。
それにしても、今日観たのは、真空パックされたたけのこの水煮を売る、いや、ご紹介する番組だ。
テレビでたけのこの水煮を、ご紹介されて買うだろうか。これまで小判やボールペンの番組を観てばっちり説得させられ驚かされたにもかかわらず、「今日ご紹介するのは、たけのこの水煮です」とはじまって、大丈夫か!? とやっぱりどうしても思う。売れるのかそれは。
スタジオに並ぶのは、スライスしたたけのこの水煮が入った透明の真空パックだ。セット販売の10袋が傾斜のついた台に並べられている。これか……。
けれどやっぱりこれが本当にね、全然大丈夫、むしろこれまで見たどんな商品よりも明るくテンポよく紹介され、生き生きと輝くのだった。あらためてびっくりする。本当にすぐに欲しくなってしまう。
・テレビショッピングでご紹介するようになって10年が経つ大人気商品です!
・とにかくファンが多い、毎年楽しみにしているお客様が大勢いらっしゃいますからね。
・たけのこの硬い歯ざわりを想像した方、ぜんぜん違います! や〜〜〜わらかいんです。
・新米の時期、炊き込みご飯に最高です!
・先日の販売ですでに予想の倍以上売れてしまいまして、すみません本当に、ご準備の量を増やせなくてですね……ご用意の数、少なめとなっております。どうぞお急ぎください。
早速驚くほどに胸がときめいてしまう。たけのこは今年「裏年」なのだそうだ。裏年、という言葉を知らない私はあわてて検索する。不作の年のことをそう呼ぶらしい。こういう言い方にもまた、塩梅よくかきたてられる。裏年でもともと製造量が少ない上、先の放送ですでにかなりの量が売れてしまっているのだ。大変だ。
画面には受注数が表示され、ぐんぐん数を伸ばしていく。530、580、まだ番組が前半の段階で、早くも600をカウントした。ちょっと待って、それはつまり、たった今、世界のどこかでたけのこの水煮の真空パックを買った人が600人いるってことですか。
すごいなそれは。すごい世界だ。
と、思ったところで私を見透かしたようにMCがこう言った。「おひとりさま1セット限りということではございませんからね、2セット、3セットお求めになる方もいらっしゃいます!」。なるほど、ひとり数セット買っている人がいるとしたら、600セット売れたからといって、600人が買ったというわけではないのか。
MCは続ける。「今日はご用意の数が少ないという事情がございますから……どうぞお早めにお求めください。ただいまお電話が大変込み合っております。パソコン、スマホからもお早くご注文いただけます!」。つまり、600セット売れても600人が買っているわけではない、ただし、数には見えないまだ買っていない欲しい人が、まだまだたくさんいるのだ。土埃をあげてビーチフラッグのように水煮のたけのこ目がけて走ってくる、私たちが見えるようではないか。
スタジオで、パネルに表示された「お客様の声」が紹介されている。毎年楽しみにしています、歯ごたえが最高です、お料理にとても使いやすく重宝しています、薄くてコンパクトで常温保存もできてとても便利です。
ああ……。やっと分かった。これは、私の買い物ではなく、私たちの買い物なんだ。
小学生の頃、友達と連れ立って街の駄菓子屋におやつを買いに行った。中学生の頃は大きな書店へ本や文具や雑貨を、高校生になるとショッピングセンターに服を、みんなで買いに行った。買い物は、かつては友達とするものだった。大人になってからも友人と街へ出かけ、服や小物を選ぶのに付き合ってもらうことはある、けれど買い物はもはやあの頃のように開かれたものではなくなった。個人的なものになった。少なくとも、スーパーマーケットに食材の買い出しに誰か友人と行くことは、私にはない。たけのこの水煮を誰かと一緒に買うような経験ももちろんない。
ここには大勢の人がいるのだった。MCのご紹介によって、数百の人がせーのでたけのこの水煮を買う。おいしそう、いいなあ、食べてみたいね、便利そうだし、と、みんなで一緒に魅力を見出す。悪く言えば、アドレナリンの先走りかもしれない。でも良く言えば、うずまくのは共感の熱狂だ。
リアルタイムのお便りもテロップで紹介され、MCの方がおいしそうに食べているのを見て注文しました、と読み上げられている。普段、自分がいかに静かに物を買っているかを思わされた。ここにはものすごく賑やかな買い物がある。
さあ、開けますよ〜! とMC。何が開くんだろうと思ったら、炊飯器の蓋だった。ぱかっと開いた中にはほっかほかのたけのこご飯がたっぷりはいっている。スタジオのざわめきと一緒に、私も「おいしそ〜」と言った。
