第4回 「このペンを私に売ってみろ」で、2、3本売る人たち

 前回、テレビショッピングを専門としているチャンネルで、1時間かけて小判を売る放送を観た。観たというよりも、見学したという方が近い。いったいぜんたい、1枚の小判をどう1時間も紹介するのだろう、「そんなこと、できるんじゃろうかのう」といぶかしがって、面白がって観に来た私をテレビショッピングは画面からの風圧で吹き飛ばした。

 すごかった。それはもう堂々と、朗々と、小判を売っていた。「歌い上げる」みたいに「売り上げて」いた。

 小判は純金製で、50万円以上する。こんな高額商品をテレビで売る、ということはつまりお客さんは電話やネットで買うわけで、そんな50万円の使い方があるのだと大いに驚いた。と同時に、もっと身近な、日用品に近い商品はどんな感じで売るんだろうと思ったのだ。

 小判は価値がある。買い物としては明らかに非日常的な、ハレの側の物であって、価値を高らかに訴えやすい。紹介していた小判は昭和100年を記念したもので、付加価値も高いように見えた。

 テレビショッピングの専門のチャンネルでは歯ブラシとかサンダルを紹介する時間枠もある。小判に比べると、どうだろう、さすがに売りづらいんじゃないか。普通だったら店に静かに並んでいるような商品だ。買う側の私たちとしても、なんとなく選んで棚からすっと抜き取って買い物かごに入れる、ケの商品だと思う。

 そうして今日も番組欄をなんとなしに眺めていたところ、ボールペンを売る時間枠があるのを見つけた。

 ボールペン……?

 いや、ちょっと待ってくださいよ。ボールペンをテレビショッピングで売る。それはどういうことなんだ。ボールペンくらい、店で普通に買いますよってば。適当に試し書きでもしてよさそうなものを買うし、そもそもボールペンなんていったら、寝ててもどこかから自然と入ってくるノベルティ性の強い文具だ。

 子どもが通う高校の前で無料配布していた予備校のボールペンだとか、ドラッグストアでもらった薬の名前が書いてあるボールペンだとか、親戚がくれた運送会社のボールペンだとか、うちにはとにかく未使用のボールペンがたくさんあって、間に合っている。

 そこをテレビショッピングは今日の19時から30分、時間を割いて紹介してくれるという。本当に……? 正座で見学するしかない。

 観た。ボールペン、熱気いっぱいで売られていた。しかも、売れていた。

 いやもうすごかった。「こうやってやるんだ」と、またもや思わされた。商品は、キャラクターのイラストの入った3000円ほどする高級な部類のボールペンである。インクの色はすべて黒なのだけど、ボディの色が4色あって、それぞれ柄が違う。

 どこを売るかというと、まず柄や色など商品自体の良さを伝えるのはもちろんだ。握りやすさ、ほどよい重さ、研究されつくした開発技術による書きやすさ、インクの発色の美しさ。どんどん魅力を売り込んでいく。同時に、高級感がありプレゼントにもぴったりであること、今日の購入では特別に箱に入れて届けることなど、周辺にも価値を置きまくる。MCと“商品アドバイザー”と呼ばれる元気なふたりがどんどん畳み掛けていく。

「ご自身へ、お早めのクリスマスプレゼントというのはいかがでしょうか」との発言には心からあっぱれと感じ、後ろに5センチほど倒れた。だって放送時、まだ9月である。あわてんぼうのサンタクロースがここにいる。

 なるほど、と思わされたのはその後だ。なんと、製造元の文具メーカーの歴史を紐解き始めた。年表が示され、歴史のある会社で、知らない人は誰もいない超有名メーカーであると、この会社の送り出すロングセラーの名品もひとつひとつ紹介していく。ボールペンに内在する価値は全部見つけて一つ残らず表出させようという気概が本当にすごい。

 一筆箋に「いつまでも元気でいてね」「ありがとう、大好きだよ」と、ペンで書く実演が始まると(もちろん、早口で語りながら書いている)、軸は真鍮に塗装仕上げですから、書いているときの手や指が美しく見えますねと、見た目の良さに触れ、それにやっぱり手書きはすばらしいですと、手書きの豊かさにまで話を広げる。極め付けがこれだ。

 「私、子供の頃にサンタクロースを信じてたんですね。あるときのクリスマス、サンタクロースから手紙がきてて、それがどう見ても父の字だったんです。笑っちゃったけど、嬉しかったんですよね」

 エピソードである。

「先週、実家に帰っておばあちゃんとお父さんに会ってきたんです。その時に、おばあちゃんが手書きの手紙をくれて。じんとしました」

 私はエッセイを書く仕事をしているから芯から知っているのだ、エピソードの大切さを。物を語るときにまず大事なのはエピソードである。とにかくエピソードを一塊にして手渡すこと。語りはそこから始まる。テレビショッピングはそんなこと、とっくのとっくに承知なのだ。

 ボールペンの魅力の説明が時折中断され、リアルタイムで今どれだけ売れているかを伝えるのもテレビショッピングの醍醐味だ。

「あっ、ちょっとまってくださいね、今、お電話大変混み合っているようです!」

「ご注文たくさんいただいております。お電話ありがとうございます!」

「人気のお色からなくなっていっております。すべてのお色からお選びいただける今のうちに、どうぞお電話ください」

「間に合ってください!」

 「間に合ってください」という言葉を初めて聞いた。テレビショッピングでしか聞けない言葉だ。ああ……。感激に胸を押さえて、「間に合ってください」と筆圧強めに手元の紙片にメモを取る。そんな私が手にしているのは、地元選挙管理委員会の名前と「選挙に行こう」と軸に彫られたボールペンである。

 「このペンを私に売ってみろ」という言葉がある。就職の面接などで言われたという都市伝説が数々ありながら、元はおそらくレオナルド・ディカプリオ主演の映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のセリフだろう。私の大好きな映画だ。映画では、ペンが必要なのに手元にない状態を作り、その人に売るアンサーが描かれ、なるほどと思わされる。

 が、私がいま「このペンを私に売ってみろ」と言われたら、すぐに走っていってテレビショッピングのMCと商品アドバイザーを連れてくる。この人たちこそ、ボールペンを売れる人だ。

「本日は、おまとめ買いをなさる方が大変多いそうです」

「おまとめ買い、大正解ですよ!」

 1本じゃなくて、2本も3本も楽勝で売っている。ディカプリオもきっと買うだろう。

古賀及子
/Koga Chikako
エッセイスト。著書に『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』(素粒社)、『暮らしの信じ方』(ダイヤモンド社)、『忘れたこと、忘れないままのこと』(シカク出版)、『5秒日記』(ホーム社)等がある。9/15には『遠くまで旅するような顔だけをする』(産業編集センター)が刊行となる
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