第3回 小判について話す、1時間話す

 テレビ放送に執着がない。もう20年ちかく、自宅のテレビは地上デジタル放送が映るだけの、ケーブルテレビの一番安いプランを契約している拙宅だ。

 最近テレビショッピングというものに興味を持ち、もっと知りたいと思うようになってはじめて、自宅で見られるチャンネルのなかに、テレビショッピングを専門に放送するチャンネルがふたつもあることに気がついた。しかも両方とも、24時間放送している……。というのが本連載で前回私が驚いたことだった。

 一度驚いてもまだ驚き足りない。さも、前回のあらすじをお伝えするためかのように上記したけれど、あらすじの説明以上に、私がまだずっと24時間放送のテレビショッピングの専門チャンネルが自宅で見られることに驚きを噛みしめ続けていて、書かずにはいられなかった。

 前回は、24時間いったい何を放送してるのかを番組表から眺めた。普通に生きてスーパーやコンビニに行くだけでは知り得ない、テレビショッピング独特とも言っていい商品が並んでいたことにまた、驚きを加速させた。

 印象的だったのが、朝の9時から小判を売る番組を放送していたことだ。そもそも、小判が商品であるという発想が私などにはなかった。昔話で土から出てくる、時代劇で最中の下に隠される、歴史の授業で種類を覚えさせられる、それが小判だろう。テレビショッピングで朝の9時に売られる物だとは、ちょっと思いつかない。

 これが未知の世界かと、圧倒され大いに関心し興奮もしながら、さてでは今日は朝から晩までどんな商品を紹介しているのかなとまた番組表を見たら、なんと今日も小判を売っている。17時からだ。小判ってそんなに毎日売るものなのかと慌て、向こう3日の番組表も確認したところ、小判は今日だけらしい。明日はおでんを、明後日は歯ブラシを、1日かけて何枠も時間を割いて売る予定のようだ。

 ということは、今日が小判を売るようすを見る大チャンスだ。17時を待ち、正座で拝見した。小判の紹介は1時間枠らしい。1時間もかけてじっくり小判を売ろうというのである。い、いったいどうやって……。

 商品は、小判と、それから2種類のコインのようだ。どちらも純金製で、昭和100年を記念したものだという。表面に鳳凰や富士山がデザインされている。

 番組は生放送だ。画面にはゆっくり回転する小判が映し出された。きっとこの道の大変なベテランであろうとおぼしきMCさんが進行役として登場し、堂々と、そして朗々と商品名や価格を紹介する。

 あっ! 

 50万円以上する……!

 純金製であり、資産として持つ目的の物でもあるからそりゃあそうなのだけど、目を見張る高額だ。テレビで見たものに50万円払う、そういう雰囲気がお茶の間にあり得るのだ。考えたことのない種類のポテンシャルだなと思う。

 しばらくして、ゲストをご紹介いたしますというから、タレントさんが出てくるのかなと思ったら、小判を製造しているメーカーの社長であった。この社長さんがまた大変に出慣れているようすで、姿勢が良く身なりもびしっとして、それこそタレントのように垢抜けていて、生放送に登場するのにまったく危なげがない。

 小判もコインも、3つの訴求ポイントがあるようだ。ひとつめは、そのものの美しさ。金というやわらかい素材を苦労を経ていかに美麗に加工したか、デザインにはどのようなこたわりがあるかが語られる。ふたつめは「昭和100周年」の持つ物語だ。昭和という時代を、ぜひこの小判とともに語り継いでいただきたいと強く言う。そしてだめ押しのみっつめが、純金の資産価値だ。

 この3つはばらばらなようでいて、MCとゲストのトークにより巧みに絡まり、一本の線になっていく。美しいこの小判を、資産としてお子さんやお孫さんに残しながら、昭和を生き抜き時代を築き上げてきた方々に語らっていただきたいと、こういうわけだ。つい「おお……」と、眺めながら声が出た。見事だ。

 1時間も、どうやって小判を売り続けるんだろう、早々に言うことなくなっちゃうんじゃないかなどと思った自分を恥じた。このMCとゲストなら、楽勝というか、むしろお伝えしたいことが多すぎて時間が足りないくらいだと感じさせてくる。その証拠に、ふたりともゆったりとした語りながらも、ところどころでカーっと早口になる。

 MCが「社長は先日もこの商品をご紹介くださったんですよね」と言っており、なぬ⁉︎ と思ってあとで番組表を見たところ、1週間前に別のMCと一緒に出演して同じ小判を紹介していた。

 同じ商品を、ライブで2回、各1時間をかけてご紹介するわけだ。すごいなと思うと同時に、これがテレビショッピングでは普通のことなのだろうとも思い知らされる。1時間、同じワードを繰り返すのではもちろんない。さまざまな表現で、熱量そのもので紹介し続ける。

「金というのは万国共通の価値でございますからね、どの国に行かれても純金は純金です」

「昭和100年というのは今しかございませんから、来年は101年になっちゃいます」

 このまま1時間観たら、私はきっと買ってしまう。ないお金のことを思って、慌ててテレビを消した。

 まだ放送開始から20分しか経ってない。このあと40分、消えたテレビの向こうではまだ小判を紹介し続けるんだ。いや……ちがう、1時間じゃない。商品を小判に限らなければ、この感じで、24時間やっているのだった。しかもこのチャンネルの他に、もう1チャンネルあるし、テレビショッピングをやっているのは専門チャンネルだけではない。

 そういうことになっている世界自体を、いま私は知っている。まだまだ知るぞ。

古賀及子
/Koga Chikako
エッセイスト。著書に『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』(素粒社)、『暮らしの信じ方』(ダイヤモンド社)、『忘れたこと、忘れないままのこと』(シカク出版)、『5秒日記』(ホーム社)等がある。9/15には『遠くまで旅するような顔だけをする』(産業編集センター)が刊行となる
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