第2回 ここでは朝から小判を売っている

 テレビの放送に執着なく暮らしている。毎晩、同じ局のニュース番組を観る以外は、ただやってるもんを観させてもらう、という姿勢だ。ちゃんと毎週同じ番組を観るようなことが、大人になってからはあまりない。

 今の家にやってきたとき、ケーブルテレビ局の一番ベーシックな、地デジ放送のみ視聴可能なプランを契約した。普段はおなじみのキー局と言われるような放送局しか選ばないものの、チャンネルを回すうち、おまけのようにテレビショッピングのチャンネルが観られることに気がついた。どうやら、とにかくずっとテレビショッピングだけを放送しているようだ。

 へえ、すごいな、そんな放送局があるんだなあと、感心はするものの、気にとめることはなかった。

 そういえば、テレビショッピングのことを何も知らないなと気づき、その実態を知りたいと思ったとき、まず思いついたのが、そもそもテレビショッピングというものが、いつどこでやっているのか、ということだ。そういえばと、自宅のテレビに映る例のチャンネルのことを思い出した。

 あらためて番組表を見てみた。この家に暮らしてもう15年以上経つ。同じケーブルテレビの会社をずっと契約し続け、観られるチャンネルは契約時から変わっていないはずだ。

 けれど私は今日、はじめて気がついた。なんとなく「あるなあ」とだけ思っていたテレビショッピングのチャンネルが、なんと2局もある。ええっ。番組表を、今放送中の欄から、このあとの時間の放送予定を下へ下へと見ていく。止まらずに番組名が続いていく。

 ちょっと待て、さてはこれ……24時間やってるな……? テレビショッピングだけを、ずっーっと、24時間、やってるな!?

 かつて、友人が暮らしていてよく遊びに行っていた街に、薬膳系の中華料理の店がオープンした。よさそうなお店ができたねと友人に言うと、友人は「あの店すごいんだよ、24時間やってる」と興奮気味に言う。えっ。24時間やってんの。

 お酒は出すけれど、居酒屋ではない。たたずまいはあくまで料理屋だ。いわゆる繁華街のなかにあり、真夜中も人のうごめく猥雑さが魅力の街で、なるほど需要はあるのだろう。にしても、まさか24時間営業とは。

 友人と私の驚きをよそに、街にはこのあと数件、24時間営業の本格的な中華料理やが林立していった。すこし前の話で、当時はまだその呼び名は一般的ではなかったように思うのだけど、今で言うガチ中華だ。友人は「あのタイプの店、ほっとくとすぐ24時間営業するから目が離せない」とも言っていた。

 テレビショッピングの専門チャンネルにも、ちょっと同じ雰囲気を感じる。ほっとくと24時間やっちゃう感じだ。ふたつある局は、どちらも24時間放送であった。

 休みなく、いったいどんなものを売っているんだろう。公式サイトには番組表があり、執筆当日のそれぞれの局のラインナップはこうだった。

 A局 B局 
0時 サンダル 基礎化粧品 
1時 シャンプー ワンピース 
2時 サプリメント 基礎化粧品 
3時 ジレ(袖のない上着) 基礎化粧品 
4時 ファンデーション 基礎化粧品 
5時 歯ブラシ 基礎化粧品 
6時 ベルト 基礎化粧品 
7時 サンダル 排水管クリーナー 
8時 パンツ 基礎化粧品 
9時 ウィッグ 小判 
10時 サンダル 栄養剤 
11時 ジュエリー 基礎化粧品 
12時 基礎化粧品 シーリングライト 
13時 ふとん Tシャツ 
14時 サンダル 排水管クリーナー 
15時 レインコート 包丁 
16時 北海道旅行 スポーツウェア 
17時 天然石ジュエリー 基礎化粧品 
18時 馬のサプリメント ぬか漬け 
19時 まぐろの缶詰/水羊羹 ファンデーション 
20時 基礎化粧品 排水管クリーナー
21時 すのこマット排水管クリーナー
22時 サンダル基礎化粧品 
23時 基礎化粧品エアコン室外機用遮熱装飾シート 

 歯ブラシから北海道旅行まで、売りに売ったりである。

 注目はB局の9時。朝から小判を売っている。

 午前中にテレビで小判が買える世界に暮らしていたんだ私たちは。知っていたか。私は知らなかった。

 いったん心を落ち着かせ、静かにふりかえってみれば、そういえば、たしかに通販は小判を売るなと思い当たる。そうだ、新聞だ。日曜版によく、小判やコインの広告が出る。資産としての金はすさまじく高騰はしているものの、今なお注目が集まり続けていると聞く。

 A局の18時については、どう記載したものか悩んで「馬のサプリメント」と書いた。

 馬に与える用のサプリメントではなく、馬プラセンタと呼ばれる、サラブレッドなどの馬の胎盤から抽出された希少な成分を用いたもので、美容に効果があるという。これまでぼんやり生きおおせてきてしまったもので、そのようなものがあることすら知らなかった。

 どの商品も、これをテレビでどう売るのだろうと思わされる。B局が2時から6時までぶちぬきで基礎化粧品を売っているのもパワフルだ。何がどうなっているんだろう。

 どういうわけか、むやみに力が湧いてくるではないか。馬プラセンタに頼らずして、ラインナップを見るだけでもうちょっと私が元気だ。

古賀及子
/Koga Chikako
エッセイスト。著書に『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』(素粒社)、『暮らしの信じ方』(ダイヤモンド社)、『忘れたこと、忘れないままのこと』(シカク出版)、『5秒日記』(ホーム社)等がある。9/15には『遠くまで旅するような顔だけをする』(産業編集センター)が刊行となる
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